ツァイガルニク効果(Zaigarnik effect)という、舌を噛みそうな心理学用語をご存じだろうか。人間は「達成できた事柄」よりも、「達成できなかった案件」や「中断状態にあるもの」のほうをよく憶えているもの――。そんな現象をさす言葉だ。

 一方、おなじみの「To-Doリスト」とは、文字どおり「やる(べき)ことの書き出し一覧」のこと。今回ご紹介する、米国ベイラー大学睡眠神経科学認知科学研究所からの報告は、その両方に関連する。

 就寝(ベッドイン)前に、翌日にやらなければならない事案の項目(To-Doリスト)を書いておくと、早く眠りにつける可能性が高い――。このような実験結果が、同大学研究陣の探求によって明らかにされたのだ。

 『Journal of Experimental Psychlogy』(1月号)に掲載された論文の中で、主筆のMichael Scullin氏は次のように記している。

 「現代社会を生きるわれわれの場合、年中無休状態を強いられ、次々と予定が飛び込んでくる。ベッドインして以降も終わらせることのできなかった未完タスクをふり払えず、それが脳裡から離れないで不安を感じてしまう事態は誰にでも起きうることだろう」と。

就寝前の不安軽減メモ

 Scullin氏の前説によれば、不安に思っている事柄を書き出すと「それが軽減されて、眠りにつきやすくなる」という傾向自体は、従来の研究からも明らかにされていたようだ。

 そこで同氏が率いる研究陣は、より具体的なコマを進め、就寝前にTo-Doリストを書き出す行為を試みれば「寝つきの悪さを改善できるのか?」について検討を重ねた。

 被験対象には、18~30歳の年齢幅に属する健康な大学生57人が選ばれた。実験は平日の夜、57人全員に同研究室内の施設に宿泊してもらい、ベッドイン5分前の課題を下記の2班に振り分ける形式で行なわれた。

 ①数日以内に自分がやらなければならないことを洩れなく書き出すTo-Doリスト群

 ②この数日間に自分が成し遂げたことに関して記述する日記群

 なお、平日夜の宿泊(実験)が選ばれた理由は、週末の場合は「就寝時間が不規則になりがち」な傾向に加え、平日のほうが「持ち越されるタスク(課題)が多い可能性が大」だという通例が考慮されてのことだ。

「To-Doリスク群」が入眠までの「平均時間が短い」

 被験者たちは実験当時、全員が「22時半」にベッドインするように指導され、日常習慣がどうであれ電子機器類や宿題の持ち込みも厳禁として各自眠りに就いた。そして、その夜の各自の睡眠状態が、研究所所蔵の「睡眠ポリグラフィー」と呼ばれる検査装置を用いて厳正に観察された。

 観察記録を検証した結果、①と②の両群に差が判明した。具体的には、②の「日記群」と比べ、①の「To-Doリスク群」のほうが、ベッドインから入眠までの「平均時間が短い」というものだ。

 Scullin氏は「To-Doリストと睡眠の関係について、かなり有望な結果が得られたと思うが、今後もより大規模な研究で検証する必要があることも確かだ」と指摘。

 さらに同氏は、今回の研究対象が若くて成人という層に限られていた点にも触れ、「たとえば今回の研究結果が、はたして不眠症患者にも当てはまるものなのかどうか等は不明だ」としている。

To-Doリストリスト自体がストレス要因に!?

 一方、タスク処理の効率化から生産性を高め、自由な時間を手にする最強ツールとして重用されてきたTo-Doリスト自体が、近年、「不要論」にさらされている事実も否めない。

 事実、多くの富裕層や起業家、一流アスリート、優秀な学生陣などを取材した米国の人気作家は、「成功者はTo-Doリストは使わない」と指摘しており、多くの支持を得てもいる。

 To-Doリストの「不要/否定派(カレンダー方式の支持派が大勢)」が共通して挙げる、その問題点は、To-Doリストは「所要時間が分からない」「緊急事項と重要事項の判別がしにくい」「前掲のストレス要因(ツァイガルニク効果)を生む」という3点だ。

 しかし、アプリケーション化された昨今のTo-Doリストは、期日との組み合わせ登録で管理もでき、カテゴリ分類や重要度、あるいは締切日の確認なども対応可能だ。

 要は、それを活かすも実質不要とするのも、自分の使い勝手や相性次第というわけだが、「自分の場合はTo-Doリストでも予定表でも手書きで書かないとどうにも落ち着かない」という人には、今回紹介した就寝前の行為を実践してみると、思わぬ快眠効果が得られるかもしれない。