Real Madrid コバチッチ VS メッシ

技巧派の選手でありながら、リオネル・メッシマンマーク役を担うこともあるレアル・マドリーのMFマテオ・コバチッチ。守備に強みのあるカゼミーロなどではなく、なぜコバチッチにこの役割が与えられるのだろうか。ファンタジスタによるファンタジスタマンマーク。ミスキャストのようでいて、こうしたケースは珍しくないようだ

ファンタジスタなのにメッシのマーク役? コバチッチがエース対策に適任な理由【西部の目】



 

 

 

 

 

メッシ番のファンタジスタ

 NKディナモ・ザグレブからインテルへ、そしてレアル・マドリーへ移籍したのが2015年の夏。クロアチア代表のルカ・モドリッチや当時レアルの監督で、インテル時代の監督でもあったラファエル・ベニテスの推薦があったという。マテオ・コバチッチは旧ユーゴスラビアの名人たちの系譜を継ぐ。強い足腰と柔らかいボールテクニック、そして大胆な発想力。十代のころからクロアチアの将来を背負って立つ大器と目されていた。

 ただ、レアルの選手層は厚い。先輩のモドリッチがいて、トニ・クロースもいる。盤石の2人を支えるカゼミーロも不可欠で、イスコも台頭していた。コバチッチの出番は限られていた。

 今季のスーペルコパ、コバチッチは意外なところで脚光を浴びることになる。リオネル・メッシのマーク役をこなして完封してみせたのだ。12月23日のエル・クラシコでもコバチッチはメッシ番で先発、前半は完璧に抑えている。

 コバチッチはセンターサークルでまずセルヒオ・ブスケツを制御し、さらに自陣に引いたときにメッシをマークする任務を果たしていた。

 ビルドアップの軸となるブスケツにパスが入らないようにし、次にブスケツカリム・ベンゼマに受け渡して自陣へ引くと、今度はセルヒオ・ラモスからメッシを受け取る。そこからはメッシにぴたりと影のようにつきまとう。エル・クラシコの命運はコバチッチにかかっていたといっていい。

クラシコではメッシに完敗

 レアル・マドリーバルセロナは0-0でハーフタイム。レアルは4つの決定機を決め損ねている。守備は完璧だった。しかし後半に様相は一変する。

 エルネスト・バルベルデ監督がポジションを整理すると、バルセロナはようやくパスが回り始める。そして54分にラキティッチのドリブルからセルジ・ロベルト、ルイス・スアレスと渡ってゴール。このとき、コバチッチはラキティッチの近くにいながらボールを奪いに行かなかった。

 メッシがいたからだ。コバチッチとレアルは、メッシよりもラキティッチをフリーにすることを選んだといえる。メッシはコバチッチを試すように、ゆっくりとラキティッチの後方をジョギングしていた。

 63分、コバチッチに対してメッシがファウル。すぐに立ち上がれない強烈な当たりだった。コバチッチが回復しないうちにバルセロナが攻め込むと、カルバハルのハンドボールバルサにPKが与えられ、ここまで眠っていたメッシが決めて2-0。メッシは93分にも得点、しかしこのときにもうコバチッチはピッチにいなかった。

 終わってみればメッシのクラシコだった。ただ、コバチッチにとってこれは終わりではなく物語の始まりなのかも知れない。

●エースをマークするエース

 ファンタジスタファンタジスタをマークする。ミスキャストの極みのようだが、意外とあるのだ。

 1966年ワールドカップ決勝、イングランドの攻撃のすべてを握る男、ボビー・チャールトンをマークしたのは20歳のフランツ・ベッケンバウアーである。

 西ドイツは最大の攻撃カードを自ら捨てたことになるが、そうまでしてもチャールトンを止めなければならないと考えていた。このときの西ドイツの中盤はベッケンバウアーのほかにボルフガング・オベラーツとヘルムート・ハーラーがいたが、いずれも攻撃型の選手。チャールトンを抑えられる可能性があるのはベッケンバウアーしかいないと判断したようだ。

 ベッケンバウアーは奮闘してある程度の制御はできていたが、イングランドに疑惑のゴールで敗れたので作戦成功とは言い難い。それ以上に西ドイツの作戦は「弱気」と批判された。

 1970年、4年後の準々決勝でベッケンバウアーはリベンジを果たし、イングランドを自らのゴールとともに打ち破っている。ただ、彼が「皇帝」になったのはリベロとして君臨するさらに4年後だ。もう誰もマークする必要がなかった。

 1986年ワールドカップ決勝、ディエゴ・マラドーナマンマークしたのはローター・マテウスマテウスはダイナミックなMFで西ドイツのエース格だった。だが、マラドーナをマークできるのはマテウスしかいなかった。ベッケンバウアーと似たケースといえる。

 マテウスもあらかたマラドーナを封印したが、勝ったのはアルゼンチンである。そしてマテウスも4年後にリベンジしている。1990年イタリアワールドカップ決勝、マテウスリベロとして全軍を統率、アルゼンチンを破って優勝した。マラドーナのマークはギド・ブッフバルトに任せている。

 コバチッチがメッシ番にされている理由は、ベッケンバウアーマテウスの場合と同じだ。攻撃で発揮される多彩な技巧とステップワークは、守備面で読みとアジリティとして発揮される。メッシの素早さに対抗できるのはカゼミーロの強さよりもコバチッチの速さなのだ。

 コバチッチ対メッシは幕を開けたばかりかもしれない。クラシコがまだ残っているし、CLでも対戦する可能性がある。少なくとも、6月21日にはロシアでクロアチアとアルゼンチンの対戦が決まっている。メッシをマークするなら、モドリッチでもラキティッチでもなく、やはりコバチッチになるのではないか。