いきなり!ステーキ の将来性?

「ここまで倍々で成長してくると、会社の中の管理体制がガタガタになるのではないかと誰もが心配する。でもご安心ください」。ペッパーフードサービス一瀬邦夫社長は自信たっぷりにそう語った。

 いきなり!ステーキを運営するペッパーフードサービスは2月中旬に2017年12月期決算を発表した。売上高は362億円(前期比62.2%増)、本業の儲けを示す営業利益は22.9億円(前期比2.4倍)と大幅な増収増益で着地した。2017年は5月に東証マザーズから東証2部に市場変更、8月には東証1部にスピード昇格も果たした。

 今2018年12月期について会社側は、売上高629億円(前期比73.7%増)、営業利益40.3億円(同75.5%増)と好調が続くことを見込んでいる。その前提となるのが、既存店の成長だ。

会員向け施策が奏功

 いきなり!ステーキは2013年12月、銀座に1号店を出店。名前のとおり、前菜などを挟まず、ステーキを立ち食いすることをコンセプトにした業態だ。肉はオーダーカットが基本で、「カット場」と呼ばれる注文窓口で客が食べたい肉の種類とグラム数を伝えると、店員がその場で肉の塊をカットする。

 グラム当たりの金額は、同グループのレストラン業態「ステーキくに」の半額程度と割安で、肉などの原価率は6割近くにも達する。ただ立ち食い席が基本のため、回転率が高い。客単価も2000円とチェーン店としては高額のため、店舗の売り上げ規模が圧倒的に大きいのが特徴だ。

 独自の会員向け販促にも力を入れてきた。いきなり!ステーキには「肉マイレージ」と呼ばれるポイントカードプログラムがある。食べた肉の累計グラム数に応じてポイントが貯まっていく仕組みで、上のランクに行けば行くほど、来店時に受けられる特典が豪華になる。 

 たとえば、累計3000グラム以上でもらえるゴールドカードになると、通常300円で提供されているソフトドリンクが来店のたびに1杯無料になるといった具合だ。2018年1月末時点で累計420万枚超のカードを発行し、カード利用率は54%にも上る。

 こうした施策が奏功し、2017年12月期の既存店売上高は前期比で23.1%増という大幅な伸びを記録。客数も23.9%増と好調だった。2018年12月期も肉マイレージカードの活用による販促や他企業とのコラボ企画を実施。さらに、「肉マネーギフトカード」と呼ばれるプリペイドカードを東京や神奈川などのコンビニエンスストアやドラッグストアで販売し、リピート率の向上や新規客の取り込みを図る構えだ。

 成長に向けたもう1つの柱が店舗網の拡大だ。既存店の好調ぶりを背景に2017年12月期は商業施設や郊外ロードサイドなどに積極的に進出し、国内での出店数は71に上った。

わずか1年での200出店を目指す

 今2018年12月期については、前期比2.8倍となる出店200を計画する。2017年12月末時点のいきなり!ステーキの国内店舗数は186店であることから、わずか1年で総店舗数を倍以上にする計画だ。

 「郊外店の出店が好調だったので、昨年の8月くらいからこれは200店行けるのではないかと真剣に考え始めた。4年間かけて200店近くに到達したが、それを1年間でやる」(一瀬社長)

 出店加速のカギとなるのがフランチャイズ(FC)による出店だ。もともとは大半の店舗が直営による運営だったが、昨年ごろからFCによる出店も増やしている。2018年は200店のうち120店をFCで出店する計画だ。

 いきなり!ステーキの圧倒的な売り上げを見て、ラーメンチェーン・幸楽苑ホールディングス(HD)のように新規にFC加盟する企業も増えている。

 幸楽苑HDは既存のラーメン業態を転換し、3月末までに6店、18年度は10店程度の出店を予定している。一瀬社長は「メガフランチャイジー向けの加盟説明会を開いているが、成約数は非常に多い」と語る。

 立地については、コンビニの退店案件を活用しているほか、ロードサイドの洋服店や書店の敷地内に照準を合わせ、選定していく構えだ。

 ただ、これだけの大量かつ、FCメインの出店はペッパーフードサービスとして過去に例がない。仮に出店が果たせたとしても、直営店舗で実現してきたような収益性や店舗運営力を保てるかは未知数だ。

社員教育を徹底できるか

 懸念されるのがFC店舗を指導する本部社員の教育だ。2017年12月末時点のペッパーフードサービスの社員数は530。店舗網の拡大に対応すべく、足元では1カ月に30~50人ほどの正社員が入社しているという。

 一瀬社長が直々に経営理念を語る「社長道場」と銘打ったプログラムなどを用意し、教育に力を入れているとはいえ、急速な人員増加の中でもこれまでのような育成が継続できるのか。店舗を指導する人材の育成が十分にできなければ、店舗ごとの売り上げに大きなバラツキが出る可能性もある。

 また、いきなり!ステーキは肉などの原価率が6割近くに上る一方、高回転率によって利益を確保するビジネスモデルだ。裏を返せば、客数の減少によって売り上げが下がれば、一気に業績が悪化するリスクもある。

 外食チェーンでは、大量の出店を急ぐあまり、店舗立地の選定を誤ったり、人材確保や教育が追い付かずに客離れを招く、というケースが往々にしてある。1月の既存店売上高は前年同月比7%増とまずまずのスタートだった。既存店の伸びを継続しながら、もくろみどおりの店舗網拡大を実現できるか。2018年はいきなり!ステーキにとって勝負の年となりそうだ。